2017/2/28
ソン・ミンギョン(長崎県)
ヨロブン、アンニョンハセヨ! 皆さん、こんにちは!
長崎県の国際交流員ソン・ミンギョンです。こちらのコラムを通して皆様に韓国の文化や情報をお伝えします。どうぞよろしくお願いいたします。
今年度のテーマは「冠婚喪祭」ということで韓国の4つの伝統儀礼について紹介してきました。今回のコラムではそのうち最後となる「祭」についてご紹介します。
「冠婚喪祭」の「祭」に当たる「祭祀(チェサ)」は亡くなった先祖の霊をまつる儀式を意味します。元々「祭祀(チェサ)」は古代の天(神様)を祭る儀式でした。朝鮮時代に入ってから儒学の影響を受け、先祖を崇拝する思想が広まり各家庭で行われる祭祀の形式が作られ、代々継がれてきました。祭祀には様々な種類がありますが、現代の家庭で一般的に行っているのは亡くなった家族(祖父母、両親等)の命日に行われる法事、「忌祭祀(キジェサ)」とソルラル(旧正月)や秋夕(チュソク)といった名節(ミョンジョル、民俗的な祭日)の朝に行われる「茶礼(チャレ)」の二種類です。忌祭祀と茶礼の内容はほとんど変わりませんが、忌祭祀は深夜に、茶礼はソルラルや秋夕の朝に行われます。また故人の供養の意味が強い忌祭祀に比べ、茶礼は年の節目や収穫の喜びを、先祖を迎えながら祝うという行事です。お供え物にも多少の違いが見られます。
「祭需(チェス)」とは祭祀の時、特別に準備する料理のことを言います。忌祭祀と茶礼で先祖に供える祭需を並べたお膳のことをそれぞれ祭祀床(チェササン)、茶礼床(チャレサン)といいます。
「出典:Pixabay」 CC0 |
霊である先祖は刺激の強い物を好まないという考えから祭需には唐辛子やニンニクは一切使いません。すべての料理は塩と醤油だけでうす味に仕上げます。そして鮮やかな色の食べ物は避け、祭需に使われる餅も地味な単色のものしか準備しません。 祭祀膳としては魚、果物、肉、餅、吸物、ご飯など、何種類もの料理が準備されます。特に秋夕は秋の収穫に感謝する気持ちが込められていますので、祭需にはすべて秋に収穫した新鮮な野菜や果物を使います。
そして祭祀膳に欠かせない三つの食べ物がナツメ、栗、柿であります。
「出典:Pixabay」 CC0 |
ナツメは木一本に数えきれないぐらい多くの実が実ることから、子孫の繁栄を意味するといわれています。
「出典:Pixabay」 CC0 |
栗は、実をとってから、種が腐り始める特性があり、これは先祖と子孫との堅いつながりを意味するといいます。
「出典:Pixabay」 CC0 |
柿は他の木と違い、種から出る最初の枝には実が実らず、3~5年後、元の枝から枝をとり、つぎ木をしなければ実が実りません。つまり、人間は身を切るような苦労を経験していろんなことを学ばなければ、実を結べないという意味が込められています。
祭祀や茶礼を行うのは、儒教の思想が根底にあります。そのためキリスト教信者の場合、祭祀の儀式を行わず料理だけを準備し、親戚一同が集まって団欒の時を過ごす人々もたくさんいます。また現在は、名節に対する考え方自体に変化が出てきています。連休となる秋夕やソルラルを旅行などに利用する人も増加しており、「去年は行ったけれど今年は行わない」など、フレキシブルに捉える人も出てきています。
祭祀の準備はとても大変です。そんな手間を省くために登場したのが、祭祀・茶礼床の料理や用品のオンライン宅配サービスです。指定した日時に商品が到着、盛り付けるだけなので、外出先でも祭祀を行うことができます。また宅配まではいかずとも、ネット上には祭祀の準備から進行手順まで、事細かに説明したサイトが多数見られます。
「出典:Wikipedia」 By Noh MunDuek (投稿者自身による作品) |
写真や話だけでは祭礼や祭祀がどういうものなのかイメージしづらい外国人観光客におすすめのビッグイベントがあります。ソウルでは年に1度、韓国最大規模の祭祀とも言える朝鮮王室の祭礼儀式を観ることができます。宗廟大祭(チョンミョデジェ)は朝鮮時代の歴代王の魂が眠る廟をまつる王室の祭礼儀式。年に1度、毎年5月第1日曜日に歴代王と皇后の霊が眠る、世界文化遺産に登録された宗廟(チョンミョ)で行われます。韓国最大級の伝統行事で、形式と伝統が脈々と受け継がれてきました。代々、王がとり行ったため、王子を始めとする多くの臣下が参加し、現在もその規模に変わりなく、祭礼楽を演奏する楽工や伝統舞踊を踊る人々など参列は数百人にのぼります。中でも歴史的・芸術的に価値が高い伝統音楽である礼楽は、ユネスコ無形文化遺産にも認定されています。